仕事柄、私は日々結構いろんな人と接する機会がある。
一般的に有名人と言われる部類の人と、子連れのお母さんと、居丈高なおじいさんと、つまりいろんな方々と、ほんのちょっとだけ接点を持ち、話を聴く。
そんな中で、圧倒的に面白いのは行商人のおじさんだ。
先日、アマリリスの花を抱えたおじさんが来た。担ぐほどたくさんの花を持っていて顔さえよく見えなかったが、お花の行商人だ。彼の物言いが面白かった。
「日本人だろ、おまえさんは。だから、賭けてやってもいいけどおまえさんは、花を買わないだろ、絶対に!」
きっと、どこでもこの手で人に花を売ってきたんだろうな。。。
「おまえさん、トルコ人だろ」、「おまえさん、イタリア人だろ」。。。とか言って。
とにかく、私はおじさんからアマリリスは買わなかった。
ほれ、俺の言った通りだろ、という顔をしておじさんは言い放った。
「やっぱりな、日本人は花を買わない国民だ!」
私のせいで一億総日本人が花を買わない、と判断されてしまうのは、なんとも無茶だが、まぁいい。
次は、はちみつ売りのおじさん。
こちらは、下手に出る戦法だ。
「僕の友人が昨年から独学ではちみつ作りをしているんだ。初めてできたはちみつだから、試してほしんだよ。」
私は、はちみつのことはよくわからないけれど、そのパッケージの絵がどうにも素人っぽい。
それを何気に尋ねた。どうやらこのパッケージは、おじさんがその出来たてホヤホヤの養蜂家のために描いたらしい。
ただ同然のお安いはちみつを私は一瓶だけ買った。
なんと、とびきりのおいしさだった!
もう一瓶買いたいのだが、彼にはあれっきりお目にかかっていない。
最後は、インド人のおじさん。
頭にはターバン、手にはアタッシュケース、かっちりとしたスーツを着込んだおじさんだった。まさにビジネスマンの井出立ちだ。おじさんは、クールにお天気の話など、スモールトーキングをした後、やおらアタッシュケースを開けた。
中にはずらりとインドのお土産が並んでいた。小学生が修学旅行で買いそうなチープなお土産品だ。
なぜ、ドイツにいてインドのお土産を買わなくてはいけないのだろうか?
いや、どうしておじさんは、インドのお土産品をここドイツで行商しようと思い立ったのかをまず知りたい。
「インドのお土産はインドで買いたいよねぇ、おじさん。」とサラッと言ってみた。
「そりゃ、そうだわな!」とあっさり認めて笑顔で去っていった。
どこからその商売を思いついたのかを聴きそびれてしまった。
そのほか、夏の暑いさなか、自分の商売はそっちのけにして、私のためにアイスを買ってきてくれた行商人のおじさんもいた。
防災用の懐中電灯を売りに来たくせに、電池が入っていなくて、点灯するのか、しないのか試すこともできない、ちょっぴり間が抜けた人もいた。
ネットショッピングが普通になった今、行商人という言葉もいずれは死語になるのかもしれない。
けれど、クリック一つで物を買うより、時には彼らのくせのある売りこみに耳を傾けたくなるのは、私だけじゃない、と信じたい。
今日の紹介は電池の入っていないシグナルフラッシュライト。
行商人の防災懐中電灯ではないが、点灯するかどうかはわからない。無責任なようだが、このフォームとポップな色合いをみると、フラッシュライトの役目よりインテリアの役目を仰せ付けたくなる。
こんなに可愛らしい感じなのだが、実は戦争のシグナルランプとして使われていたらしい。もう役目を十分果たしているのだから、お休みさせてあげたいようにも感じる。
もちろん、自分本来の役目を果たしてなんぼ、でしょ、という方には全くお勧めできない品だ。
「大丈夫か?」。。。「こっちはOKだ!」
生きるか死ぬかの極限の中で使用されたのかもしれない。。そう考えると、やけに愛おしさが増す。
Premi製は、横部分にスイッチがあるが、Daimon製はライトの丸い部分を右左に動かすことで消したり点けたりできて、こちらの方がシグナルを送るには適しているように思う。
赤いライトは全く使われた形跡がない。白と黒のライトはかなり使われたらしく、塗装が剥げていて、その歴史を重く感じることができる。
とにかく、役目を終えたこのライトは、過去のことは何も語らず、しかしその存在を今に残して、何かを訴えているように思えてならない。
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