人の細胞は毎日入れ替わり、その全てが変わるのに、おおよそ5〜7年かかるという。
小腸なんて二日で新しく変わっているというのだから驚きだ。
つまり、私は15年近くもドイツに住んでいるのだから、ドイツの気候や食べ物などにすっかり適応できる身体になっているはずだ。
ドイツに住み始めた当初は、水が合わなくて髪がバサバサの見るからに不健康で、手入れをさぼったおばさん風だったし、空気の乾燥がひどくて、身体中が痒くて、お猿のように暇さえあれば、ぽりぽりとやっていた。
今は、それが嘘のよう。。。やはり、私の全ては入れ替わり、すっかり別物になっているようだ。
身体的に変わっていく私たちだが、環境でも知らず知らずのうちに変わっていく。
今日は、ドイツに住む日本人が、あっという間にドイツ人化してしまう、三つのことをお話したい。
ドイツ人化・其の一
散歩が日常になる。
ドイツ人ほど散歩が好きな国民はいないのではないか?
かの有名なベートーベンは毎日決まった時間に、雨が降ろうが風が吹こうが同じ道を速歩でかなり長い時間散歩したという。
むかし、学校の音楽の時間に先生がそんなことを説明したのをよく覚えている。
「偉人は毎日規律正しい、自分を律した生活をしてるんだなぁ」などと子供心に思ったものだが、実はドイツ人、みんなが散歩好きなのだ。
私のパートナーの親友は、今深刻な離婚の危機の只中。
彼らは一緒に、暇さえあれば散歩をしている。
パブなんかでビールを飲みながらグダグダと愚痴るよりは、ずっと健康的で安上がり。
大いに散歩で発散していただきたい。
先日、こちらに住んでいる日本人の方と会う約束をした。
カフェでお茶をした後、どちらともなく「散歩をしましょう!」となった。
典型的ドイツ化だ。
お腹がいっぱいになったから、散歩。
悩みがあるから散歩。
アイディアに行き詰まったから散歩。
何もないから散歩。
1日は散歩に始まって散歩に終わる、これが典型的ドイツ人の姿だが、案外に日本人もいつのまにかそれに染まっている。
ドイツ人化・其の二
これは、少々個人差はあるのだが、たいていのドイツ人は友人を家に招待する。
もちろんみんなでレストランで集まって、わいわいすることも多いが、家に呼んで食事を一緒にする、というのも大事なイベントの一つ。
今年は、サッカーのヨーロッパマイスターシャフト(ヨーロッパ選手権)がパリで開催されたが、我が家は、ドイツチーム、イタリアチームの試合があるたびに誰かがやってきていた。
テレビを庭に運び出し、試合を見ながら夕飯を一緒に食べる。
私はこういう時は大抵カレーなどを作って、何人来ようが肝っ玉母さんの対応をするが、
そもそも、ドイツ人は粗食なのだ。
食べるものがあれば誰も不足を言わない、結構、単純明解な国民だ。
もちろん、きちんと人を招くことも多い。
料理があまり得意じゃない人は困るだろうなぁ、と思うが、そういう人たちは大抵出来合いの惣菜なんかで適当に済ましているように見受けられる。
明らかに出来合いのお惣菜を盛り付けただけ!とバレバレでも、そこは誰もつつかない。
「どうやって作ったの?」などと野暮な質問は絶対にしてはならないのだ。
私も、レストランとかで食事をするのも好きだが、やはり長居が気にならない家に招く方が好きだ。
家に招くとなると、片付けをして掃除を手抜かりなくして、花を飾って。。。などと気取るのはもうしんどい。
ありのままを見せて、美味しく食べて楽しく呑んだくれる方がよっぽど良い。
ドイツ人化・其の三
こちらに住む日本人が真っ先に覚えるドイツ語の一つ、”Urlaub” (ウアラオプ)は、多分最もすんなりとドイツ人化してしまう事柄だと思う。
“Urlaub” (ウアラオプ)とは、バカンス、という意味だ。
バカンス、ヴァケーションとかフランス語や英語は美しい響きだ。
白い砂浜の海岸でさわやかな風に煽られる麦わら帽子。。。な〜んて美しい情景が目に浮かんでくる。
ドイツ語のウアラオプは、干し草と牛の落し物の香りが充満した農家の庭で寝転ぶ少年のイメージだろうか。。。
だいたいにおいて、ドイツ語はダサいのだ。。。(私はそこが好きだけれど。。。)
とにかく、イースター前、夏休み前、冬休み前。。。休みと名のつく前には必ず話題に上るのが、これ。
「どこにウアラオプに行くの?」
言い換えれば、話の接ぎ穂が見つからない時には、この話題に尽きる。
とにかく旅行好きなドイツ人は世界中を旅している。
私も仕事にミスが続いたり、働くモチベーションが下がりっぱなしの時は、パートナーの耳にちょうど入るようにつぶやく。
「ウアラオプが必要よ。働きすぎだって、私。。。」
残業もせず、有給休暇をほぼ100%近く消化するドイツ人の生産効率は日本人のそれより高いと言われている。(2012年の調べでは、労働1時間当たりの生産性がドイツは58,3$, 日本は40,1$とドイツのそれより低いのだ。)
理由は、いろいろとあるのだろうが、自分の仕事量を的確に知っていて、それを時間内に消化するための効率を考えて働く、計画性をあらかじめ持って働く、などなど仕事に対する姿勢が前向きなことがこの差を生み出しているのではないかと思う。
定時退社して、自分のため、家族のために時間を作るドイツ人は、生真面目で合理的だが、その生活の質はかなり高いような気がする。
私は、長年過ごした日本での働き方が染み付いていて、仕事の仕方については到底ドイツ人化できていない。でも、休暇については、大いにドイツ人化が進みすぎてこまっている。
今日の紹介は、楽しい?、いや怖い。。。一品。
パリへ3泊4日のミニウアラウプ(短期休暇)の際に、蚤の市でみつけた。
箱の上部には「la 8e merveille du monde」(「世界8番目の不思議」私はフランス語は全くできないので、訳には自信はないが。。。)と書いてある。
これを手に入れた私は、パリに住んでいる友人と二人でスーパーマーケットに立ち寄った。
買いたい商品と一緒に、この赤い箱を混ぜて、レジに持って行った。
レジを担当していたお兄さんが、「?」という顔をしてこの小箱を手に取った。
友人がフランス語で
「開けてごらんよ!」と彼に声をかけた。
レジのお兄さんは、
「何?何?えっ?怖いよ!」
そう、最近のパリの人々は小さな「?」にも怯えている。。。
友人はやさしく言った。
「爆弾とかじゃ絶対にないから!さぁ!」
彼が猫なで声を出せば出すほど怪しい!
横でクスクスと笑う私をレジのお兄さんは見て、危険なものではない、と判断したらしい。
金具を外した。
びよ〜んと怖い顔の人形が飛び出した!
レジのお兄さんは「わざとじゃない?」というほどのリアクションでレジスターに激突するほど驚いた、笑。
時代的に言えば、多分50年代から60年代、フランス製。
髪の部分は人工毛ではなく、ウサギの毛ではなかろうか。。。
真っ黒なぬめっとした髪に覆われた、かなりおどろおどろしいこんな顔が飛び出せば、
子供は絶対に泣く!
保証してもいい。
はたして子供用だったんだろうか?
大人のおふざけなんだろうか?
「世界8番目の不思議」じゃなくて、「世界8番目の恐怖」と名前を変えていただきたい。
とにかく、これを買って以来、誰かをおどかしたい!という衝動にかられっぱなしである。
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