かれこれ3年くらいになるだろうか。
日暮れが早くなって、すっかり暗くなった私の職場に一人の男性がやってきた。
背がすらりと高く、痩せ型で年の頃は30台半ばだろうか。
話をしてみると、彼はブラジル出身で、しかし母親はフランスに住んでいるという。ドイツには研究のために来ているという話だった。その他、ちょっとしたスモールトーキングをして彼は帰って行った。ごく普通のお客さんで、特別に印象に残るとは思えない感じだった。
しかし、次の日、また同じ時間帯に彼はやってきた。
物腰も柔らかく、丁寧で、紳士的だ。
私の気持ちの中では「昨日に続いて今日。。。どういうこと?」と訝しくは思ったけれど、そんなことはおくびにも出さず、またまたお天気の話や日暮れが早くなってしまったことなど、当たり障りなく話をした。
そして、その次の日。
彼はまたしてもやってきた。
「週末とか何をしているんですか?」と彼。
「土曜日も仕事なので、日曜日は爆睡していて、気が付いたらお昼。。。そんな週末なんです、あはは!」と私。
私は昨日よりはさらに動揺している。
そこで、しばしの沈黙。。。
思い切ったように彼は話を続けた。
「あなたは多分仕事のしすぎです!楽しみを見つけるべきです。」
おっしゃる通り、でも、彼に言われる筋合いはない。
返事をしない私を見て彼は次のように続けた。
「日曜日に一緒にジョギングをしませんか?その後、カフェでブランチをしましょう!」
えっ?こんな展開に話が進むとは予期していなかった私は、不意打ちをくらった。
「ど、どうして?私と?ジョギング?」
彼が言うには、私はコンピュータに向かって難しい顔をして書き物をしているか、電卓を叩いてそろばん勘定ばかりしているように見えたらしい。ついでに言えば、訪ねてきたのは3日前からだが、どうやらここのところ毎日のように私の職場の前を行ったり来たりして私を観察していたようだ。
「私、スポーツと名のつくものは全て嫌いだし、せっかくの日曜日くらい自分のしたいことをしたいのです。せっかく誘ってくださったけれど、ご一緒できません!」
嘘で丸め込むより、本音で語れば必ず通じる!と思った私は、馬鹿でした。。。
彼は、いきなり。。。興奮気味にまくしたてた。
「母の住むフランスに行きましょう!ゆっくり過ごすこと、楽しみを見つけることを一緒にしましょう! 私は研究者なので、家で仕事もできます。たっぷりとあなたとの時間も作れるし、あなたは私のそばでゆっくりしているだけでいいのです。」
待って、待って、待って。。。3日前に初めて話をした女性にいきなり話す話じゃないでしょう。
とにかく、私は彼の興奮を抑えるためにコップいっぱいの水を差し出し、子供を諭すように彼のお母さんの住むフランスに行けない話をこんこんと説明するはめになってしまった。。。
ブラジルのオリンピックが始まるとのニュースを見て、3年前のこのことをふと思い出したのだった。
今日紹介するのは、50年代だろうと思われるキッチンスケール。
いろいろとネットで検索をしてみたけれど、全く情報がない。
先日話をした地域ごとに開かれるフリーマーケットでこれを見つけた。
見つけた経緯が案外面白いのでちょっと紹介をしてみる。
こうしたフリーマーケットでは地域住民の人たちそれぞれの不用品をお安く必要としている人たちに譲っていく、というドイツらしいマーケットなのだが、そこここで開かれているマーケットでは、住民の方たちが作ったケーキやマフィンなどもとても安く販売している。プロ顔負けのようなケーキを出している人たちもいて、すっかり歩き疲れた時には良い休息になる。
とあるマーケットで、手作りチョコレートを量り売りしていた。
そこで使われていたのが、このスケールだったのだ。
アーモンドの入ったチョコをひとかけら計ってもらって、おもむろに私は尋ねた。
「あの〜、そのスケールって古いものでしょ?」
まさかスケールのことを質問されるとは思ってもみなかったらしく、売り子の彼女はうろたえた。
「この計り?のこと? 買いたいなんて言わないでよ?この計りがないとチョコを売ること、できないもの。。。」
それはそうだ。。。
その時、いっしょにマーケットを出していたおじいさんが助け舟を出してくれた。
「我が家のスケールを今部屋に取りに行ってあげるから、それ、買ってもいいよ!」と。
こうして、このスケールは、晴れて私のものとなったのである。
雰囲気の全く違うベークライト製のキッチンスケールもあります。こちらからどうぞ!
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