今の仕事につく前、私は写真プロダクションの会社で働いていた。

どんな人も自然体でいる時が美しいとは、わかっていても、格好をつけたいもの。。。

どんな人も自然体でいる時が美しいとは、わかっていても、格好をつけたいもの。。。

 

ある日、イギリス人ボスに呼ばれた。

「今度、日本人のモデルを使って写真シューティングをすることになったから、募集をかけて!そして、2週間後に審査しましょう!」

「えっ?ここは日本じゃないし、日本人のモデルって。。。そんな募集かけたって、誰が来るの?。。。」

と小声でボソボソ言っていると、

「集まらなかったら、君がモデルになるしかないからね!」と

そんなぁ〜。

私は速攻でポスターを制作し、あちこちの日本レストラン、食材店に貼りまくった。

内心、こんなので人、集まるわけないよなぁ、と思いながら。。。

 

普通なんだけれど、違った空気をさらっと出せたら、素敵。

普通なんだけれど、違った空気をさらっと出せたら、素敵。

 

それが。。。

 

ポスターを貼ったその日から、私の電話は鳴りっぱなし。

ぜひ応募したい、興味がある、経験がある。。。の電話だ。

モデル採用になったら、もちろんギャラは発生するが、応募の段階では何も発生しないばかりか、審査の日は結構一日掛かりになるので、丸一日つぶれてしまう。そんなことを電話口で脅すかのようにしっかり念を押すのだが、

「大丈夫ですよ、そんなの慣れているし。。。」

などとこともなげな返事が返ってくる。

私の住むこの街には日本人モデルがそんなに滞在しているのか???

 

奥の彼女、ワインの知識が半端ではなかった。プロ中のプロ。衝撃的なほど美味しいお店。どんな仕事でもプロには敬服する。

奥の彼女、ワインの知識が半端ではなかった。プロ中のプロ。衝撃的なほど美味しいお店。どんな仕事でもプロには敬服する。

 

審査当日。

朝一番からすでに続々と人が集まってくる。

私たちの会社にこんなに多くの訪問者は来たことがない、というほどだ。

 

赤ちゃんもいる、かなり年配の方もいらっしゃる。。。なって、こった。。。

 

とにかく応募者には、こちらで用意した応募用紙に、いろいろな必要事項を書いていただいた。

この用紙の最後に「申し込んだ理由」の欄を設けていたが、どの方も、その欄が真っ黒に見えるほどぎっしりと理由を書いてくださっているではないか。

 

みなさん、例外なく本気なのである。

 

写真家と私二人で、モデル候補の方々一人一人を呼んで、スタジオに入ってもらい撮影を開始した。表情をうまく出せるか、大きなポーズで役を演じきれるか、などなどそれなりの項目を持ってモデルの器量をはかるわけだ。

 

数人、この仮シューティングをやったところで、私と写真家は顔を見合わせた。

 

みなさん、自分の頭の中で描いている「ファッションモデル」を演じている。

 

私は、募集のポスターの中に明記しておいたはずだ。

モデルというより、役者の要素が大きいこと。自分の年齢より老けた役柄を演じたり、かっこいいことばかりをするのではないことなどなど。

みなさん、それなのに。。。

小首をかしげ、顎を上げ、片方の肩を突き出すようなポーズをとるのだ。

 

見ている私の方が恥ずかしくて、まっすぐに彼らの方に視線を向けられない。

目をつむって、見なかったことにしたい。。。

写真家の彼女の方を伺うと、吹き出す寸前で顔を真っ赤にして耐えている。

 

"Sauf"はドイツ語で「のんだくれろ」みたいな言葉。自転車のマークとのコンビネーションがおかしくておかしくて。。。この日本人モデル審査のあとはのんだくれたかった。。。

“Sauf”はドイツ語で「のんだくれろ」みたいな言葉。自転車のマークとのコンビネーションがおかしくておかしくて。。。この日本人モデル審査のあとはのんだくれたかった。。。

 

私は、最後までどうしても彼らがあの日、あんなに真剣にモデルを夢見てわが社に来ていたのかがわからなかった。

 

そして。私は、といえば、イギリス人ボスには一日を無駄にしたかどで、叱られた。

「もう二度と日本人モデルのシューティングなんて考えないでよ、ね!」

と彼の部屋をドアを静かに閉めてから、こっそりとつぶやいた。

 

パリの街角で見つけたもの

 

今日の紹介は、家や商店などの玄関のチャイムを鳴らす道具。

 

パリの裏道を歩いていた。

私は方向音痴なので、どこの地区なのか、どのあたりなのか、全くわからないが、

ちょっぴり変な雰囲気の通りだった。

 

何が変化といえば、その通りのほとんどがフェイクブランドのバッグのお店だったのだ。

それだけではない。

お店の人たちは、ほとんどが中国人だった。

フェイクブランドだけではなく、もう流行遅れも甚だしくて誰がいったい買うのだろう。。。というようなバッグも取り揃えてあるようだった。

店構えも、商売している風には見えず、薄暗く、埃が溜まり放題、といういかがわしさ全開。

 

パリの街角で見つけたもの

 

その一角に内装工事でもしたのだろうか、壊れたタンスやら、壁を剥がした残骸などがまとめて放置されていた。

このゴミの山の中でこれを見つけた。

 

パリの街角で見つけたもの

 

えっ?ゴミの中から拾ったの?

と言われるかもしれないが、そう、全くその通りだ。

 

玄関チャイムを押せば、電線を伝って、この小さな道具につながり、バーが二つの鐘を鳴らす仕組み。

線さえ繋げば、未だに機能するはずだ。

 

多分、1930年代から40年代のものだと思われる。

木箱の作りも大変丁寧だし、鐘の部分は錆び付いているが、音には全く問題がない。

その堂々たる姿は、チャイムとしての仕事を全うしている、という自信がみなぎっているかのようだ。

 

パリの街角で見つけたもの

 

この中国人達は、どうしてフェイクブランドと流行遅れのバッグを販売しようと思いついたのだろう?

それも、両隣も真向かいも

そして、その通りのほぼ全てが同じようなお店なのに。。。

 

せめて、古く趣のあるチャイムくらい残しておけば、ちょっとだけでも違いを主張できたのに。。。